みそかす日記

映画とか本とか美術館とか飲み屋とか。日々のけだるげな記録

2023上半期読んだ本ベスト5ぐらい

今週のお題「上半期ベスト◯◯」

とかく積んでいる時間が長いため、読む頃にはわりと話題が去っていることも多いのですが、諦めずに読んでいます。

はりきって振り返ってみたが、そもそもあんまり読んでないな……。

■読んでいない本について堂々と語る方法

 ハウツー本みたいなタイトルですが、だいぶ違います。

 読んでもすぐ忘れてしまう、自分流に読んでいる、なんなら記憶が捏造されている、なんてことはザラにある私にとって、最後のページにたどり着くことが、ある本を「読んだ」ことになるのか、はかなり怪しいと思っていました。

 この本によると、そこは別にいいやん、というか当然やん、ということです。

 一昔前に比べれば、本を読んでいることにそんなに価値を置かなくなってきているし、「読んでいません」とおおっぴらに言ったって、それほど恥を感じるかというとそうでもないようにも思います。仮に中身がよくわからなくても、「読んでない」と言いたくないがためだけにとか、「これを読んでないのは恥だ」というモチベーションでなにかを読む体験をしている人って、激減しているんじゃないでしょうか。

 とはいえ、そこはそんなに大きな問題ではなくて、「読む」ってどういうことか、「本」についてなにか述べるとはどういうことか、について考える論考だったと思います。

 読んでなくても、それが世の中の知の体系の棚のどのあたりに収まるものなのか、だいたいわかっていればその本について語ることはできる(ということはね、勉強しなくてもいいってことではないんですよね。むしろ思い切り考えないとです)。ヴァレリーとか、もう読んだほうが早くない?みたいなかんじだったり。ていうか、たしかに「嫌い」を表明するのってエネルギーいるよね、と逆説的に考えたり。

 あと、同じ本を読んだとて、育ってきた環境が(というか、育んできた内なる図書館が)違うから、全く別の本になっとる可能性もあるよね、というので、要するにどうせ本のことを語るとか超不確かなことなので、あんまり思いつめなくてもいいんじゃないですか、というか「読んだ」という事実自体が大切なわけではないよねっていうことで、なるほどでした。

 ハムレットのくだりはすごく興味深かったし、なんと、漱石も取り上げられています。みんなが読んでいる(と思われる)けど自分は読んでいない本を言い合うゲームとその顛末か、あと、著者が読んでいないのに「全然面白くない」とか評価している(作中作で実在しない本もあったり)のも、面白かったです。

 

天上天下 赤江瀑アラベスク

 いやー、なんというか、好き。決して読みやすくはなかったですが、ウェットなんだけどべちゃっとはしていなくて、きらびやかだけれども退廃も同時に普通にそこにいて。私、いわゆる伝奇ものとか幻想もの読んでいると気分悪くなったりする(風太郎先生ぐらいまでが限度)んですけど、そういうのはあんまりなかったです。
 怪奇寄りの幻想文学がお好きならぜひ。

 1に収録されているのは、下記3つ。どれも本当に美しかったです。

「海峽──この水の無明の眞秀(まほ)ろば」
「星踊る綺羅の鳴く川」
「上空の城」

 いわゆるひとつのジャケ買い。3まであります。

 

■ある男

 難しいんですね。
 ストーリーは、夫が実は名乗っていたのと全然違う人で、亡くなってからそれを知ってアラびっくり、「この人、結局誰だったの」を探す話なんだけど、私が私であること、この社会の中でって意味ですけど、て、そんな思うほど確かでない。マイナンバーカードひとつとっても、簡単に他人になってしまう(まあ、これは事故というか事件ですが)。
 この人が誰なのかある程度わかってくると、なぜそんなことをしたのか、というところに移っていきます。そこに、調査する弁護士の諸々が重なるというか、弁護士が自分の諸々を重ねていって、ぼくがぼくであるためにってなんぞやって話になっていく。

 もちろん、残された妻と子どもたちの話でもある。この男の子がええ味ですよ。こんな子おるんかなって気もするけど、いそうって気もする。少なくともこの話の中ではリアリティーがありました。
 そしてまたこの弁護士が、30代ということだけど、老成してるというか疲れ方がすごいというか、現代の30代でこれは少ないんちゃうか、昭和の30代やろ、という気はしました。この弁護士が妻とうまくいかん理由がね。正しい正しくないでなくて、根本的に違うっていうところが、ぐさりときましたね。でもそれも仕方ないな、と彼は納得するんだけども。で、あの弁護士パートのラスト……あれ、なんなんでしょう。吹っ切れたのか、ブチ切れたのか、心が軽くなったのか、現実から逃避してしまったのか。何度も味わいたいところ。
 借りて読んだ本だから、もう手元にないんだけども。

 

蜜蜂と遠雷

 おんだりく読んだーーーーーってかんじのお話でした。
 音楽を文章で表す、というのがまずすごいなと。しかもコンクールの話なので、やること、起こることは決まっているわけで、途中で飽きるんちゃうかなと思っていましたが、それぞれのコンテスタントに、舞台に上がるまで、演奏しているとき、演奏している曲にこめられた思い、そしてその後、の物語があって、どんどん読めて面白かったです。

 

 

■暇と退屈の倫理学

 この先生が好きで読んだ。
 クールなんだけど熱いところが好き。
 といいつつあんまり覚えていないんですけど、はからずも同時期に『退屈とポスト・トゥルース』を読んでいて、私ってそんなに退屈に(無意識の)興味があったんかなと思ったりもしました。

 

 

■番外:金子一馬画集8

 これ、だいーーーぶ長いこと4以降が出なかったので忘れていたんだけど、ふと思い出して見てみたら出てるやん!(しかもだいぶ前に!)てなってとりあえずひとつ買いました。
 うっすらしていた。
 この「8」はペルソナ1と2(罪と罰)なんだけど、背幅が足らず文字はみ出しとるやん。