長いこと気になっていました。
予告編を見たときに、「これはどうかな……」と思ったのでそのままになっていましたが、とにかく評判がよく、同僚にも勧められ、家人も見に行ったというので、ほんじゃ行くか、ということで。
<以下、ネタバレあり>
同僚の評は、3時間(の長さ)を感じないおもしろさ、とのことでした。私としては、予告編のお化粧どろどろになって泣いている図を見てすでにお腹いっぱいだったので「そおなの?」というかんじでしたが、よく映画を見る人がそう言うのだし、ハズレはないだろうとは思っておりました。
家人の評は、おもしろかった、良かった、がベースでしたが、
「渡辺謙が女形……?」
「あの一緒に入れ墨までいれた女の子が、別の子(俊ぼんのこと)のほうに行ってしまうのはおかしい」
「人間国宝(これは万菊さんのこと)がどんなに落ちぶれたとしてもあんなところに住むわけない」
「女将さん(寺島しのぶ)の態度がなんかおかしい」
「あんな入れ墨のある人、なんぼなんでも歌舞伎役者にはなれない。外国でも上映されているらしいが、勘違いされないか心配」
などなどでした。
で、年末ようやく。
全体的には、おもしろかったです。
■良かったところ
・ 衣擦れの音。美しい
・ きれい! 華やか!
・ わかりやすい!
・ すぐに展開するので、長いけれど飽きない(特に後半)
・ 同じ理由で、いやあああぁぁつらいーーーという状況が非常に短い
・ よくわからないけど主役二人が仲良しなので、ギスギスした気持ちになりにくい
・ うわ、これあとで響いてくるやつでしょ、と思った嫌な展開になりそうな伏線が回収されない(笑) 具体的には、きれいなお顔に喰われちまいますよ、的な万菊のセリフ。顔で損した描写はなかったように思うけど、もしかしたらドサ廻りしているときに寄ってきた男の人に「偽物」と言われたことなのかもしれない。もしそうなら、そのぐらいで済んでよかった
・ なにしろ役者さんがすごかった
・ 田中泯が特にすごい。出てきたときの緊張感
・ 準備ができたときの「はい」がなんとも言えず良い!
・ 逆説的に歌舞伎の女形のすごさがわかった
総じてストレスが少ない3時間だったと思います。
■そうでもなかったところ
・ 後半、同じことを何度も見ているような錯覚が……
・ いろいろあって戻ってきても、人物なり芸なりの変化がよくわからない。最初の道成寺といろいろあったあとの道成寺、とか
・ お化粧どろどろ踊りは酔いそうだった
・ いくらなんでもけっこうな名跡を襲名した人があんなにまで落ち目になるもんなんかな……
・ 歌舞伎の舞台で良い場面ってとこで上から別の音楽がかぶさってくる。それはめっちゃくちゃがんばっていても、やっぱり歌舞伎役者でないので仕方ないのかもしれない
・ 曽根崎心中、さすがに舞台でドタバタしすぎでは……あの状態で続けるかなぁ
・ 人間国宝になるってことはそこそこのお歳だと思うけど、最後まで吉沢亮が若いというか、年を取ったフリもしない
でも、このあたりは別にいいです。
喜久雄が最後まで異常に若いのも、普通の人じゃない感が出ていていいのかもしれないし。
■ものすごい気になったところ
● 彰子が行方不明になった
女性の扱い方がどうなの、みたいな感想はちらほら見ていたので、そういう意識はありましたけれども、歌舞伎界での女性の立ち位置っていうのは知られているわけですよね。良し悪しはおくとしても、そういうものだよね、と驚きはない。なので、劇中で妻、愛人、恋人がああいうふうに扱われていることは、私としては、まあ、そういうこともあるんだろうな、というかんじでした。
でも、この映画自体の女性の扱いには凄みがなかったような気はします。踏まれても蹴られても覚悟決めて最後までやったるで(梨園の女性はこうあるべきとかと言いたいのではないです)、みたいなものはあんまり感じられなかったので、なんだか便利に使われているようには見えました。
寺島しのぶを使っておいて……となんだかメタながっかり感もちょっとあるなどしました。
● 悪魔と取引したんやろ?
ラスト、喜久雄は人間国宝になるわけですが、娘さんがカメラマンとしてやってきます。
ここまでの流れだと全然会っていなかったのかなというかんじだったので、見てすぐに娘ってわかるんか、というのもありますけど、それも吹っ飛んだのが、娘さん、最初は、お父ちゃんと思ったことない、とかまともなことを言っているのに、急に「日本一の歌舞伎役者にならはったね」とか言っていて、なんかそれはおかしくない? ドスで刺してくる展開を予想したんだけど。
このあたり、めっちゃ気になったので映画館からの帰りに原作を買って読んだところ、そのあたりはかなり違っていました。原作のほうは女性もそれぞれ根性があって、納得できるかんじでした(繰り返しですが、良し悪しではないです)。
このお話って、つまるところ「役者の業」の話なんだと思うけど、タイトルからしても最後どうなるかだいたいわかるわけですよね。役者の、一般人の理解・行動からはみ出している感じ(一般人からすると不愉快な部分もあるでしょう)とか悲劇性よりも、共感できるような、良い気分で劇場を出られるストーリーを優先したのかなという気がしました。
結果、成功しているし、良いよね。
これで歌舞伎を見に行く人が増えたらすばらしいと思いますが、この映画が好きな人の多くにとっては、歌舞伎は退屈かもしれんと思わなくもないです。でも、まずは行ってみないとわからないもんね。
なお、原作の小説は地の文が敬体で、「語り」みたいになっています。
お話の中身はなかなか生々しいけれども、この軽妙な語り調のおかげで、てんてん、と進んでいきます。
映画の中で印象的だったセリフは、だいたい原作にあります。でも、そのタイミングでそういうふうに言うと、意味変わってない? と思うところも……。
あと、舞台に男の人が侵入してくるところも、だいぶ意味が変わっていたかな、と。原作では、ここで現実と舞台の境が壊れてしまって、喜久雄が違う世界に行ってしまう最後の一押しになった、と思います。で、最後の舞台で「きれいやなぁ」と言いながら外、道路に出ていってしまう。
映画のラストは、見たかった景色が見えた(現実にはないものを見ているってことですよね)、ということで、原作とある意味同じ終わりなのかなぁとも思います。あっちの世界というか、あの世に行ったのかな、とも思いました。
昭和の興行とか、それに続いてテレビとか、そういう文化史としてもおもしろかったです。




