みそかす日記

映画とか本とか美術館とか飲み屋とか。日々のけだるげな記録

ぜひ見てください『侍タイムスリッパー』

 先輩が、友達が映画監督やねん、できたらしいよ、とおっしゃるので、「ええ!」と思って見に行ってきました。

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 つまり、私はおじいおばあ子で時代劇はそれなりに見た(一推しは杉さま)、という素地(?)はあれど、この映画に関する予備知識はゼロでした。

■前置き

 本当に申し訳ないのですが、私、邦画ってほとんど見ないし(つまらないという思い込みがあるのはたしかですけど、自分の生活からなるべく遠いほうが好きなんです。まあ、普遍的な問題を扱う作品は、日常とは遠くても近くに感じますが、それはそれで良いというかとても良いです)、それに、今、時代劇って本当に大変ですよね。まず、時代劇っぽい顔の人が(脇にしか)キャスティングされないじゃないですか。感覚現代人だったり、セリフ回しが現代語だったり。それもいいんですけど、とにかく今の時代、時代劇はいろいろ難しいんだろうなぁ……と思って、あんまり期待していなかったんです。

 ところが(本当にごめんなさい)。
 面白かったです!!!

 まず、主役の役者さん(山口馬木也さん)のたたずまいがすごく「時代劇」なんです。この言い方は書いていてちょっとおかしいかんじがしたのですが、というのは、主人公は幕末からタイムスリップしてくる武士なんですね。なので、侍らしい、というのが本当なのですけども。しかし、この映画は「映画(特には時代劇)を撮る」ことについての映画でありますから、そんなにおかしくはないか。

 とにかく、この顔の、この立ち方の人が出てくる、というのがもうすごい真実らしいと思いました。なんかすごい綺麗な顔の下級武士とか出てきて舌足らずに喋ってたら、その人見に来たならともかく、ちょっと変やなって思うじゃないですか。「拙者」とかこれまでの人生でたぶん言ったことなかったよね、みたいな。いいけどね。

 あのね、ぶっさいくという意味ではなくて、すごい整ったお顔立ちなんですよ。でも、武士っぽいんです。しかも、会津藩の武士。ああああそうねぇ薩長じゃないよねぇみたいなね。時代劇って、殺陣がまず思い浮かびますけど、それより前にたたずまい自体にそういう説得力いると思うんですよね。もちろん、「そういう時代劇の場合」であって、「時代劇風の何かです」なら、別にそうでなくてもいいのですけども。でも、このお話は、私が小さいときに見ていた時代劇の数々がカギでもあるので、せめてそちらに寄せられていなかったら、「ふーん」てなったと思うんですよね。

 武士は歩き方も違ってたって言いますよね。がに股すり足で、いつも刀を提げているから左側のほうが重かったとかって。あの服装ですから、そら走り方も違いますよね。こういうところが嘘っぽいと、そういう時代劇じゃないですか。それはそれでいいんですけども、現代にあらわれた侍、という説得力としては落ちちゃいますよね。この立ち居振る舞いって、舞台挨拶のお手紙で、教えてもらわないとできないこと、っておっしゃっていたので、役者さんががんばって身につけられたことなんでしょう。

 あと、「本物の侍らしさ」とは別に「時代劇らしさ」というのもあると思うんです。古めかしい言葉は言い慣れなくて難しいというのもあるでしょうが、声の出し方?とかもちょっと違う感じじゃないですか? 「う、上様!」みたいなセリフひとつとっても、「みんなわかっとるわ」みたいな白々しいのを腹から大真面目に言うわけで。そこにカタルシスがあるわけで。

 たたずまいはもしかしたらコントロールできるかもしれないけど、顔立ちとか雰囲気って、これー、邦キチで『シン・仮面ライダー』の話してたとき、ライダー役が昭和顔って出てきてたんですけど、そのキャスティングをしたってことがそれ自体すごい語ってますやんね。

 ここまで前置き。長いね。

 ここで舞台挨拶のお写真を。

■ストーリーとか

 幕末の会津藩の武士が、現代の京都の撮影所にタイムスリップしてきて、切られ役になろうとするお話です。でも、本物の武士なんでね。現代人とのやりとりが楽しく続くかと思いきや、役者として切られ役を務めていくなか、意外な出来事が起こります。

 舞台挨拶を聞いていてなるほどと思ったのですが、現代人が過去にタイムスリップするお話はよくあるけれど、逆ってたしかにあんまり見ないかも。これ、タイムスリップしてきた人が現代を理解する過程に説得力をもたせるのが難しいというか時間がかかるからではないかなと思いました。

 現代人が過去に行ったとき、「ここはこういう時代だな」というのがすぐにわかっても不思議はないですよね。そういう時代があったって知っているので。なにより、「タイムスリップ」という概念がありますから、実際に起こったら絶対受け止められないにせよ、まあ、お話の中で登場人物がすぐ納得してもそれほどおかしくはないし、そこでもたもたされてもなぁという気もしますし。そして、現代人だから有利な立場になる、というのも理解しやすい。

 逆で今すぐ思いつくのは『パリピ孔明』(ほんのちょっとだけ読んだ)ですが、これは「孔明」とはどういう人かってもう見た瞬間わかるレベルのキャラですよね。三国志を読んだことがなくても、めっちゃ賢い人、ぐらいはなんとなくわかるので、孔明ならなんか時代跳んだとしてもわかるやろって。

 でも、今回タイムスリップしてくるのは、いわば普通のお侍さんです。しかも会津藩の人ということで、佐幕派なんですよね……。これがまたいいんですけども。ともかく、普通の人(剣の達人ではあれ)なので、普通に失敗したり驚いたりしながら現代社会に入っていきます。これが、リアルすぎずテキトーすぎず、いいかんじだなと思いました。そしてそして、現代では切り合いはないので、普通の生活では剣の腕とか特に役に立たない!笑 それで、チャンバラスターになるんかなと思うじゃないですか。でも、切られ役になるんですよ。ね。

 ストーリーはわりとゆっくり丁寧めで、ひとつひとつのシーンがなんかほっこりします。住職さん夫婦とのやりとり(初めてケーキを食べ、テレビを見るところ)、切られ役の師匠がサービスでいっぱい斬られてくれたり笑 しかしながら、クライマックスのシーンはすごく迫力がありました。見つめ合っている(語弊がある言い方)シーン、あの長さで間が持つってすごいし。あの、これは時代劇、チャンバラ好きならぜひ見ていただきたいです。あんまり見たことない方も見てほしいです。ほんとね、あれ、ええええって思いましたね。やっちゃったよーーーって。

 いろいろ良いのですけど、やっぱり主人公の朴訥さ、真摯さには本当に好感が持てました。また、もうひとりキーパーソンになる侍がいまして、この方が主人公の後ろでそっと微笑んでいるのとか、ものすごい良いんですよお。

 あと、私、全体的にはよさげな感じとかかっこいい感じなのに、何故かぶち壊すようにゲロ吐く映画って基本根性ある映画だと思うんですよね。そういう汚い情けないものも撮っちゃうっての。私自身はゲロのシーンは映画によらず一つ残らず嫌いで不愉快なんですけども(嫌いなんかい)。

 ストーリー内で、時代劇の苦境が語られていて、それは登場人物の侍たちにとっては「侍」として生きた自分やほかの人々、その時代が忘れられていくこととも重なっている。安易な解決や希望とかはないけれども、「今日ではない」ということ、であり、今日にはしない、という決意でもあり、と受け取りました。

 こがけんが言ってたけど、このセリフ、私もトップガン・マーヴェリックを思い出しましたが、これよりだいぶ早くから監督は(ほかの作品で、とおっしゃってたと思いますが)すでに書いて使っておられたそうです。こがけんさん、パクったなんて言ってないですやん、てええ人やった笑

 舞台挨拶も、本当に苦労されて、がんばって作られたんだなぁというのが伝わってきました。お金持ちとかなんとかじゃなくて、作りたいものを作る、というようなことを監督はおっしゃっていました。本当にそれができるってすごいです。

 まあ、ポスターの文字を読めるもんかなとか、もう一人のほうはどうやって生活してきたんかなとか、若干唇ズレてないかなとか、藩のその重大事を知るのほんとにそのタイミングかな、とかそういうことがちょっと頭をしゅっと掠めたりしたこともありましたけれども、些末なことです。

 面白いですし、えらそうに恐縮ですが、本当に誠実な作品だと思いました。
 皆さん、見たいと叫んでください。

 ところで、劇中、ゆうこ殿(メガネ女子かわいい)が、友達がセーラームーンが好きななか、自分は暴れん坊将軍の下敷きを持っていた、というようなことをおっしゃるのですが、暴れん坊将軍の下敷きって存在するの?! ほしい!