みそかす日記

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映画 ゴーギャン タヒチ、楽園への旅

gauguin-film.com

ポール・ゴーギャン - Wikipedia

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d3/PaulGauguinblackwhite.jpg/220px-PaulGauguinblackwhite.jpg

この人です。ヴァンサン・カッセルと似てるかな?

 

ゴーギャンが妻子を置いてパリを出てタヒチに趣き、現地の美少女テフラと出会って結婚し、彼女をミューズとしてたくさん絵を描くけれども、絵は売れず貧しいまま。病気は悪化し、フランスに送還されることになるまでのお話。

ゴーギャンヴァンサン・カッセル。すごく目が青い。ゴーギャンに似ている、らしい。
テフラ(タヒチの少女)はツィー・アダムス。

ものすごく寒い日だったので、タヒチの太陽を拝んでちょっとでも暖かい気分になりたいと思って見に行きましたが、思いのほか暗い映画でした。
良くも悪くも想像を超えるものはなかったかな。
予告編はとても興味深そうな上手な仕上がりですが、ストーリーの展開の順番とは入れ替わっているので注意が必要。

画家の苦悩とか狂気というのは、まぁ、そうかなと思います。
生きているうちに評価されなかった芸術家というのはたくさんいて、極貧のうちに亡くなった、なんてバイオグラフィーを読むと、本当に気の毒だと思ってしまう。彼ら・彼女らの中には「それでもいい、自分の道を行くんだ。他人の評価など何になるか」と満足していた人もいるのかもしれませんが、それでも厳しい生活はつらいよね……。

でも、ゴーギャンは「それでもいい派」ではなかったようです。売れないと生活できないから、売れてくれないと困る。描いてはフランスに送る。でもなかなか売れない。絵の具も足りなくなってくる。絵の具をチューブから必死で絞り出している様子は切ない。
筆を置いて肉体労働をしなければならない状況に追いやられて、その傍らで、自分が技術を教えたヨテファが作ったお土産用の量産品(といっても手作りですが)の彫刻がいい値段で売れていく。これにはガックリくる。こちらまで虚しい気持ちになる。

ただ、極貧のはずのわりには、引っ越し後、けっこういい感じの家に住んでるんですよね。物価安いんかな。
生活破綻者なのか、お金がなくてもそれなりに暮らせる土地なのか、なんかちょっとよくわからなかったりもした。

一方で、絵を描くんだと言って家族を捨ててタヒチに行ってしまうし、テフラちゃんをはじめ、タヒチの人たちを尊重しているような雰囲気もない。自分の父ちゃんだと嫌だな、というかんじの人です。
一応、現地の言葉は使っていましたが、お隣さんのヨテファにはめっちゃえらそうにしていて、結局あんなことになってしまって。
「文明化」(というか、西洋化かな)されていない自然をタヒチの人々に押し付けているわけですが、そのへんもちょっとほのめかされているだけで、特に深められてはいません。要するに植民地化された土地ですけど、そこに関する描写はほとんどなかったです。
なお、"sauvage"という言葉が「野蛮な」と訳されていて、たしかにほかに言いようはないのですが、原始の、とか、野生の、とかそういう意味に近いんだと思います。いわゆる「野蛮人」というマイナスの意味ではないと思います。

ゴーギャンの、芸術家として普通の人と違っているところ(おもに身勝手に見えてしまうところ、自由さ、頑なさ)、そのために美しく「真似できない(あるいは、したくない)」と思わせるような部分と、嫌で眉をひそめてしまうような部分とがあると思うのですが、うまくやろうとしてうまくいかない、その苦悩は現れていたと思います。
若い嫁に執着する意地悪なおじいちゃんみたいにも見えてしまうけれど、「もう、早く放してあげればいいのに」という気持ちと、そこはそれ、若いタヒチの女性の自由を抑えておくことはできない老い(というよりも、魅力、財力も含めた「力」のなさ)に苦しくなる。

(後で調べたところによると、ゴーギャンはこのとき40代半ばです。ヴァンサン・カッセルが疲れているせいか、けっこうなおじいちゃんに見えるんだけど。)

最後に、ゴーギャンはテフラとは二度と会うことはなかったって説明が出てくるんですけど、「まぁ、そりゃそうだろ」とは思いました(笑)
でも、最後の絵を描くシーンはとても良かったです。
じーんとした。生活には失敗はしてしまうけれども、彼女も「コケ」の絵はそれなりに好きだったのかな。もしかしたら、絵を描いているゴーギャンが好きだったのかもしれません。

後でWikipedia先生に尋ねてみたところ、ゴーギャンの現地妻は、なんと13歳とか14歳とかのティーンエージャーだったらしい。しかも、子どもまでもうけている、らしい。
映画のテフラは、たしかに少女ではありますが、ローティーンには見えません。
画家の女性の趣味が主眼ではないのだろうし、13歳の妻、という設定で映画を撮るのは昨今いろいろ難しいのかもしれませんが、ちょっと隠している感じがしました(後付の感想ですけど)。

タヒチって綺麗だなぁ……と思うようなカットは思ったより少なかったです。なんでこの風景であんなに鮮やかな絵を描いたんか?と思ってしまった。
森はすごかったし(馬が可愛い)、最後の、島を離れていく所はいいなぁと思いました。

ヴァンサン・カッセルの(疲れた)アップはたくさん見られます。
テフラ役のツィー・アダムスはとても綺麗な人です。

タヒチの生命力をもらえるかというと微妙かな(このへんがもう偏見なのかもしれないですけど)……と思うので、それなりに元気な時にご覧になることをおすすめします。寝ちゃうよ。

とはいえ、実はゴーギャンの絵はそんなにものすごい好き、というわけでもなかったのですが、これからはじっくり見てみたいと思いました。

そういう影響を与えてくれる映画はいいですよねと思います。