ぜひ見てください『侍タイムスリッパー』
先輩が、友達が映画監督やねん、できたらしいよ、とおっしゃるので、「ええ!」と思って見に行ってきました。
つまり、私はおじいおばあ子で時代劇はそれなりに見た(一推しは杉さま)、という素地(?)はあれど、この映画に関する予備知識はゼロでした。
■前置き
本当に申し訳ないのですが、私、邦画ってほとんど見ないし(つまらないという思い込みがあるのはたしかですけど、自分の生活からなるべく遠いほうが好きなんです。まあ、普遍的な問題を扱う作品は、日常とは遠くても近くに感じますが、それはそれで良いというかとても良いです)、それに、今、時代劇って本当に大変ですよね。まず、時代劇っぽい顔の人が(脇にしか)キャスティングされないじゃないですか。感覚現代人だったり、セリフ回しが現代語だったり。それもいいんですけど、とにかく今の時代、時代劇はいろいろ難しいんだろうなぁ……と思って、あんまり期待していなかったんです。
ところが(本当にごめんなさい)。
面白かったです!!!
まず、主役の役者さん(山口馬木也さん)の顔、たたずまいがすごく「時代劇」なんです。この言い方は書いていてちょっとおかしいかんじがしたのですが、というのは、主人公は幕末からタイムスリップしてくる武士なんですね。なので、侍らしい、というのが本当なのですけども。しかし、この映画は「映画(特には時代劇)を撮る」ことについての映画でありますから、そんなにおかしくはないか。
とにかく、この顔の、この立ち方の人が出てくる、というのがもうすごい真実らしいと思いました。なんかすごい綺麗な顔の下級武士とか出てきて舌足らずに喋ってたら、その人見に来たならともかく、ちょっと変やなって思うじゃないですか。「拙者」とかこれまでの人生でたぶん言ったことなかったよね、みたいな。いいけどね。
あのね、ぶっさいくという意味ではなくて、すごい整ったお顔立ちなんですよ。でも、武士っぽいんです。しかも、会津藩の武士。ああああそうねぇ薩長じゃないよねぇみたいなね。時代劇って、殺陣がまず思い浮かびますけど、それより前にたたずまい自体にそういう説得力いると思うんですよね。もちろん、「そういう時代劇の場合」であって、「時代劇風の何かです」なら、別にそうでなくてもいいのですけども。でも、このお話は、私が小さいときに見ていた時代劇の数々がカギでもあるので、せめてそちらに寄せられていなかったら、「ふーん」てなったと思うんですよね。
武士は歩き方も違ってたって言いますよね。がに股すり足で、いつも刀を提げているから左側のほうが重かったとかって。あの服装ですから、そら走り方も違いますよね。こういうところが嘘っぽいと、そういう時代劇じゃないですか。それはそれでいいんですけども、現代にあらわれた侍、という説得力としては落ちちゃいますよね。この立ち居振る舞いって、舞台挨拶のお手紙で、教えてもらわないとできないこと、っておっしゃっていたので、役者さんががんばって身につけられたことなんでしょう。
あと、「本物の侍らしさ」とは別に「時代劇らしさ」というのもあると思うんです。古めかしい言葉は言い慣れなくて難しいというのもあるでしょうが、声の出し方?とかもちょっと違う感じじゃないですか? 「う、上様!」みたいなセリフひとつとっても、「みんなわかっとるわ」みたいな白々しいのを腹から大真面目に言うわけで。そこにカタルシスがあるわけで。
たたずまいはもしかしたらコントロールできるかもしれないけど、顔立ちとか雰囲気って、これー、邦キチで『シン・仮面ライダー』の話してたとき、ライダー役が昭和顔って出てきてたんですけど、そのキャスティングをしたってことがそれ自体すごい語ってますやんね。
ここまで前置き。長いね。
ここで舞台挨拶のお写真を。
■ストーリーとか
幕末の会津藩の武士が、現代の京都の撮影所にタイムスリップしてきて、切られ役になろうとするお話です。でも、本物の武士なんでね。現代人とのやりとりが楽しく続くかと思いきや、役者として切られ役を務めていくなか、意外な出来事が起こります。
舞台挨拶を聞いていてなるほどと思ったのですが、現代人が過去にタイムスリップするお話はよくあるけれど、逆ってたしかにあんまり見ないかも。これ、タイムスリップしてきた人が現代を理解する過程に説得力をもたせるのが難しいというか時間がかかるからではないかなと思いました。
現代人が過去に行ったとき、「ここはこういう時代だな」というのがすぐにわかっても不思議はないですよね。そういう時代があったって知っているので。なにより、「タイムスリップ」という概念がありますから、実際に起こったら絶対受け止められないにせよ、まあ、お話の中で登場人物がすぐ納得してもそれほどおかしくはないし、そこでもたもたされてもなぁという気もしますし。そして、現代人だから有利な立場になる、というのも理解しやすい。
逆で今すぐ思いつくのは『パリピ孔明』(ほんのちょっとだけ読んだ)ですが、これは「孔明」とはどういう人かってもう見た瞬間わかるレベルのキャラですよね。三国志を読んだことがなくても、めっちゃ賢い人、ぐらいはなんとなくわかるので、孔明ならなんか時代跳んだとしてもわかるやろって。
でも、今回タイムスリップしてくるのは、いわば普通のお侍さんです。しかも会津藩の人ということで、佐幕派なんですよね……。これがまたいいんですけども。ともかく、普通の人(剣の達人ではあれ)なので、普通に失敗したり驚いたりしながら現代社会に入っていきます。これが、リアルすぎずテキトーすぎず、いいかんじだなと思いました。そしてそして、現代では切り合いはないので、普通の生活では剣の腕とか特に役に立たない!笑 それで、チャンバラスターになるんかなと思うじゃないですか。でも、切られ役になるんですよ。ね。
ストーリーはわりとゆっくり丁寧めで、ひとつひとつのシーンがなんかほっこりします。住職さん夫婦とのやりとり(初めてケーキを食べ、テレビを見るところ)、切られ役の師匠がサービスでいっぱい斬られてくれたり笑 しかしながら、クライマックスのシーンはすごく迫力がありました。見つめ合っている(語弊がある言い方)シーン、あの長さで間が持つってすごいし。あの、これは時代劇、チャンバラ好きならぜひ見ていただきたいです。あんまり見たことない方も見てほしいです。ほんとね、あれ、ええええって思いましたね。やっちゃったよーーーって。
いろいろ良いのですけど、やっぱり主人公の朴訥さ、真摯さには本当に好感が持てました。また、もうひとりキーパーソンになる侍がいまして、この方が主人公の後ろでそっと微笑んでいるのとか、ものすごい良いんですよお。
あと、私、全体的にはよさげな感じとかかっこいい感じなのに、何故かぶち壊すようにゲロ吐く映画って基本根性ある映画だと思うんですよね。そういう汚い情けないものも撮っちゃうっての。私自身はゲロのシーンは映画によらず一つ残らず嫌いで不愉快なんですけども(嫌いなんかい)。
ストーリー内で、時代劇の苦境が語られていて、それは登場人物の侍たちにとっては「侍」として生きた自分やほかの人々、その時代が忘れられていくこととも重なっている。安易な解決や希望とかはないけれども、「今日ではない」ということ、であり、今日にはしない、という決意でもあり、と受け取りました。
こがけんが言ってたけど、このセリフ、私もトップガン・マーヴェリックを思い出しましたが、これよりだいぶ早くから監督は(ほかの作品で、とおっしゃってたと思いますが)すでに書いて使っておられたそうです。こがけんさん、パクったなんて言ってないですやん、てええ人やった笑
舞台挨拶も、本当に苦労されて、がんばって作られたんだなぁというのが伝わってきました。お金持ちとかなんとかじゃなくて、作りたいものを作る、というようなことを監督はおっしゃっていました。本当にそれができるってすごいです。
まあ、ポスターの文字を読めるもんかなとか、もう一人のほうはどうやって生活してきたんかなとか、若干唇ズレてないかなとか、藩のその重大事を知るのほんとにそのタイミングかな、とかそういうことがちょっと頭をしゅっと掠めたりしたこともありましたけれども、些末なことです。
面白いですし、えらそうに恐縮ですが、本当に誠実な作品だと思いました。
皆さん、見たいと叫んでください。
ところで、劇中、ゆうこ殿(メガネ女子かわいい)が、友達がセーラームーンが好きななか、自分は暴れん坊将軍の下敷きを持っていた、というようなことをおっしゃるのですが、暴れん坊将軍の下敷きって存在するの?! ほしい!
よし、飛び降りよう!!? 『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
そうはならんやろ。
を思う存分楽しみました。
ミッション・インポッシブル7作目デッドレコニング パート1。
デッドレコニングって、Wikipedia先生によると「推測航法」ということだそうです。正直よくわからない。
ともかく、今回は、AIの暴走というか爆走をイーサンチームが頑張って阻止しようとする話。
いつもよりは説明が多いかんじで、そもそも始まるまでにけっこう長い潜水艦シーンがありまして、もう冷戦というのもないし、みんなが「これは危機じゃん」という丁度いい(と言うとちょっとアレなんですけども)状況の設定までに時間がかかっているなという気がしました。
この説明がほんとに説明のための説明で、スッと入ってきにくいなという気はしました。
英語だと"the Entity"って言ってたけど、字幕だと「それ」となっていて、これは実際そういうものなのかもしれないけど、「それ」って言われてもわかりにくいんだよね。「エンティティ」だったらわかりやすいかというとそうでもなくカタカナが増えてかえってわからなくなるのかもだけど、「それ」というか、人格を持ってるという設定なので、名前ぽくしても良かったんかなぁと思わなくもありません。わかりません。
まあ、そこは映画的には「なんとなくでいいし。超ヤバいAIってことで」てかんじなのかもですけど。
それはそれとして、トム走り(だいぶ走っている)、カーチェイス(手錠オプション付き)、バリバリバイク、電車の上で殴り合い、お約束のマスクの云々、そしてそして「よし、飛び降りよう」とありったけ詰め込まれていますから、長くなるのは仕方ない。というか、パート1で全部やっちゃったけど、パート2どうするんだろう。
このね、「よし、飛び降りよう」のくだり、すごく楽しいです。緊迫した場面なのだけど、トムの「お、おう。それしかないしな」みたいなかんじ、つい笑ってしまう。
まあ、イーサンが死ぬってのはありえないし、トムが存命なのも知っているので、見る側もそこのハラハラはない(または少ない。でもこのあたりは不思議なドキドキで、イーサンやストーリーに対してというのもあるのですが、トム大丈夫かというのもかなり混じり込んでくる)はずなのですけど、でも、後ろに行くにつれて、どうなるんだろう、どうやって成功させるんだろう、あとガブリエルやたら怖いし、に加えてすごいアクションの連続で目が離せなくて、トイレに行けません。気をつけてください。
最初の空港のシーン、スパイものらしくて良かったですし、ローマ(の車)をガンガン壊しながら追いかけっこし、ぐるぐる回ったあと運転席と助手席が入れ替わっていたり、あんまり書けないけど、あそこから飛び降りてあの場面に出てきたり、谷に落ちていく車両(オリエント急行ですよ)から上の方へと逃げていったりでこれがまたてんこ盛りでお腹いっぱい、と前からスーパーエンタメなのですが、すごいバジェットで大真面目にバカバカしいことをする(褒めています)、というほうにさらに寄っていたように思いました。
落っこちそうになる車両から無事なところまで逃げるのって、まぁ一両かせいぜい二両じゃないですか。いやいや……お腹いっぱいでした。
今回、ポム・クレメンティエフという俳優を初めて見たのですけど、アジア系のお顔立ちだなと思っていたら、やっぱりそうでした。かなり細そうですけど、アクションも良かったし、運転の狂ったかんじ、とても印象的でした笑
トムはじめ、皆さんさすがにお歳がいったなぁというところですが、イーサンがIMFに入ってから30年経ったことになってました。長いシリーズですよね。最初の頃のトム、めっちゃ若いもんね。しみじみ。
私がトムの映画で好きなところは、「はいはい、きみら、こういうの好きなんやろ?」みたいに適当にお茶を濁すのでなく、その種のサービスシーンはあるにしても、基本的には「こういうのを見せたい」という感じがするところです。ストーリーは、はっきり言って無理だらけだし、はっきり言ってあんなところから飛び降りずとも普通に乗りゃいいじゃん(前のヘイロージャンプもそうだったけど)だらけですよ。
でもいいんだよ。トムだから。歌舞伎みたいなもんだから。
映画 シェイプ・オブ・ウォーター
■雑な紹介
イライザと半魚人の恋路をマッチョのおっさんが邪魔する話。
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ
サイト:http://www.foxmovies-jp.com/shapeofwater/
2017年度アカデミー賞 作品賞・監督賞・作曲賞・美術賞
パンフレットもゲットしました。
■感想
私は好きです。
アカデミー賞を取った割には、お客さんは入っていないようにも思いましたが、そもそも万人受けする作品ではない気がします。
映画が終わったとき、「怖かった」とか「泣けなかった」という女性たちの声が聞こえてきました。
うん、怖いと思う。
デル・トロさんの映画を何本か見ているから、怖さも痛さもマシなほうだとわかりますが、『美女と野獣』みたいなロマンチック・ラブ・ストーリーなんて思って見に行ったら、それはがっかりすると思います、はい。
いや、すごいロマンチックなラブストーリーではあるんですけど、エログロはあるし(まさか半魚人と結ばれるシーンがあるとは思わなかった笑)、なんせやっぱりモンスターなんで。
どこかで、子どもから大人まで楽しめる……なんてアオリを読みましたけど、やっぱりどう考えても大人向けだと思う。子どもが見たらトラウマになるんじゃないか……?
あと、泣かせようとしている映画ではないです。お涙頂戴的な「はい、ここ!」というふうに泣かせる場面はないです。(私はしっかり泣きましたけどね。ただ涙腺が緩いだけという気もする)
どのシーンが心に響くかは人それぞれだと思います。
私は、イライザがジャイルズに向かって激しく意思を伝えるところがぐっときました。
イライザは喋れないので手話を使います。イライザ役のサリー・ホーキンスは60年代の手話を覚えたそうです。
■ストーリーは超シンプル
ホラーとかサスペンス的な空気もありますが、やっぱりラブストーリー(恋愛を中心に、もう少しいろいろ含んだラブですね)。
おとぎ話のようなフレームに入っていて、なんかちょっとあれ?というようなところ(セキュリティさすがにユルすぎるのでは…とか)も、別にいいような気がしてくる。そこは語らなくても良いという判断だったのでしょう。
また、恋に落ちる過程などははっきり描かれていませんが、イライザは「彼」を見て、ちっとも怖がらず、興味を持っています。もっとあとの場面でジャイルズが「彼」のことを「美しい」と表現しています。彼らはあの存在を美しいと思う側の人々なんですね。
おとぎ話の男女は少しずつ近づいたりはしないですよね。
だいたいは美男美女だから、お互い一目惚れでもなんとなく説得力があるようなかんじで「そんなもんかな」と思いますが、今回は美男美女ではないけれど起きたことは同じなのでしょう。
そもそも、恋に落ちるって説明できないことだし。
でも、イライザが恋をしているんだ、というのは本当に優しく丁寧に描いてあります。
恋ってステキ!って。
■「彼」はイケメンなのか
「彼」は、やっぱり「美男」の枠からは大きく外れていますし(人間じゃないし)、どういう存在なのか結局よくわからない。監督が語っているとおりですが、ヒロインがキスをしたら「美男」に変わるってこともありません。(ちょっと反れますが、「彼」がキスをしたらイライザがトラウマを克服して喋れるようになったり、もしない。必要ないのね)
どんどんイケメンに見えてくる、なんて感想もありましたけど、私はそんなことはなかったなぁ笑。最初の、目(まばたき?)がすごかった。エラが逆立つところとか。きっと、すごいぬめぬめしてるんだと思う。ジャイルズが手を拭いてたから笑
でも、最後、雨の中ですっと立ち上がって、ただ立っている姿がとても綺麗だった。あの、背中から首にかけてのラインが。
演じているダグ・ジョーンズさんによると、めっちゃ動くの厳しいスーツなんだそうです(パンフレットより)。
■マイノリティの描写
ものすごい露骨というわけでもないんですよ。ポリコレポリコレって言うけれど。
あ、そうか、気づいたらそこにいたんだろうな、というような。
でも、本人たちはものすごい差別を受けている。
お掃除係の女性に対するストリックランドの態度というのがもう高圧的で、あからさまに見下している。
ゼルダのことをわざわざデリラと呼んだり、神様の姿は(黒人のゼルダより)自分に似ていると言ったり、イライザにはセクハラするし、美人の奥さんとのベッドシーンも怖いし!
ストリックランドは、ものすごい怖い嫌なおっさんで、『パンズ・ラビリンス』の義父と同じ役割ですね。
残酷で暴力的で差別的で親戚にも親戚外にもいてほしくない人ですが、自分も、より上の権力からいつ疎外されるのではないかと恐怖を抱いている。
トイレの前と後のどちらで手を洗うかで男の価値なんて決まらないって!
「成功した人にふさわしい車です」なんておだてられてティール色の新車を買ったり(後に大破)、「あるべき男」論がなんかかわいそうな感じもしてくるほどではありました。嫌な奴だけどね。
ジャイルズが片思いするカフェの店員(たしかにパイはものすごく不味そう)は、ジャイルズの行動や黒人のお客に対してとてもひどいことを言う。
でも、当時はそれが「普通」だったんですよね。
ジャイルズは、ものすごくはっきりとゲイだってテンプレ的に描かれているわけではないです。いや、ある場面でゲイだってわかるんですけど、そこまではそれを明確に示すものはほとんどない(まぁ、カフェについてのイライザとの会話や、冷蔵庫がパイだらけの理由を考えればわかりますが。英語で聞いている人にはもっとよくわかるのかな?)。
で、イケメン店員に「うちは健全な店だからもう来るな」と言われて、二重にがっかりして家に帰ってくる。
この生きづらさ。
あと、ソヴィエト連邦ね!
博士の名前覚えにくいよ。ボブね。本名はディミトリ。
この人はこの人で「彼」に恋していて、好きすぎて人殺しちゃうからね。けっこうヤバい人ですよね。
アメリカとソ連は冷戦中で、宇宙開発で競い合っているわけです。無酸素の環境でも生きられるらしい「彼」の秘密を手に入れたいわけですね。(このへんはちょっとわかりにくかった……かな)
もとい、こういう「時代」を、1960年代のアメリカをまったく知らない私にも、ほぼ言葉の説明無しでわからせてくれるのがまぁえらいと思うわけです。
で、今ではもう想像もつかないなぁ…と思うかというとそうではなくて、今もそうなんだよなと暗い気持ちになる。
■アカデミー賞を取ったこと
とても綺麗な映画ですばらしいと思いますが、これ本当によくアカデミー賞取ったなと思う。
だって、デル・トロ監督が好きなものだらけで、ふつうに考えたら到底万人受けする設定でも絵面でもない。ストーリーはシンプルとはいえ、よく見ていないと気づかないようなところがたくさんあるみたいだし(←あとでレビュー等読んでいると、いろいろ見逃したことが判明した)、なかなかマニアックな作品だと思うんですけど。でも、見ている人を置いていったりはしないですね。
この監督は、自分の作りたいものがはっきりあるけれど、一方でお金がない(売れない)と次の作品が作れない、ということもよく知っているんだろうと思います。
「彼」が卵をしゃって取っていくところ、イライザが指のサインで「くたばれ」と言うところ、新車のキャデラックが大破してなんともいえないストリックランドの表情。ジャイルズが冷蔵庫を開けたらパイだらけのシーン、髪の毛が生えたって喜んでいるところ、それぞれ愛しい。ゼルダが「一見ついてなくても男は油断がならない」と言うあたりの一連の会話も大好き(笑)
ラストシーンの、靴が脱げるところとか。……最高。もういらないもんね。
そういえば、パシフィック・リムでも赤い靴が出てきたけど。
なんかこういう、この監督が撮りたいものって一貫性があるみたいで、色に意味をもたせるのもかなり意識的に行っているみたいです。こういうのを見つけるのも楽しいですね。
二人のラブストーリーとしてはハッピーエンドなんだと思うけれど、『パンズ・ラビリンス』でもそうでしたが、この世では成就しないんですよね。この世では成就し得ないぐらい、完璧な世界なんだと思う。
それはきっととても美しいことなのですが、ちょっと切なくもなってしまうのが凡人の性なんですかね。
でも、なんていうか、とてもきれいな作品ですよ。
ぜひ見てほしいけど、すすめるのが怖い。すすめて「これ無理」とか言われたら、その人と今後仲良くできるかどうかちょっと自信ない。
映画 デヴィッド・リンチ:アートライフ
リンチ監督はずーっと煙草吸ってた。
小さいとき暗闇の中から裸の女の人が現れたとか、マリファナ吸って運転してたら高速道路の真ん中に止まってたとかって、ふつうにホラーだった。
若いときに描いた絵がけっこう怖い。
現在の創作風景は、作ってるものはなかなか気味が悪いんだけど、楽しそうだった。
もうちょっと映画作品の話が聞けるのかなぁと思っていましたが、リンチ監督の来し方と創作全般のお話でした。たくさん本人の話が聞けます。インタビューではない、ぽつぽつと思出話のような。とても穏やかな話し方です。
イレイザー・ヘッドはとても自由で楽しかったんだって。お父さんと弟に映画なんかやめて働けって言われて泣いちゃったらしいです。まぁ、なんというか…さもありなんではありますが、それでも続けて作ってくれて良かったなぁと思います。
というよりも、作らずにいられないんでしょうね。
かなり静かな映画(音が、というより静的)で、映画のことは全体の分量からしたらちょっとなので、リンチ先生本人が大好き!でないと若干眠いかも…。
ちなみに、京都シネマのTシャツは終了していた。ちぇっ。
そんなに殺到したんだろうか。あるいはめっちゃ数量限定だったのか。ぐぬぬ。
このたたずまい。
ラブクラフトに出てきそう。
映画 「ロスト・ハイウェイ」「マルホランド・ドライブ」
ロスト・ハイウェイとマルホランド・ドライブをみました。
いずれもデヴィッド・リンチ監督作品。
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暗闇のハイウェイが怖くて…運転絶対無理。
ナオミ・ワッツです。
最初の希望に満ち溢れたベティーが…💧
なんというか、こういうかんじでした。(特にロスト・ハイウェイ)
Study after Velázquez's Portrait of Pope Innocent X - Wikipedia
映画の解説をしているサイトやブログがあって、わー、すごい、そういうことかー!と思うわけですが、最初はわけわからんままこの世界に放り込まれてみるのも良いと思います。
どちらも、イレイザー・ヘッドほど絵的には気持ち悪くないです。
私はマルホランド・ドライブのほうがちょっとはわかりやすかった気がします。
ロスト・ハイウェイのI'm derangedが耳に残って…デヴィッド・ボウイの曲です。
映画 イレイザーヘッド
「イレイザーヘッド」を見てきました。
デヴィッド・リンチ監督。
1977年の作品。
■めちゃめちゃ雑なあらすじ
印刷工のヘンリーは、恋人メアリー(の母親)からメアリーが出産したことを聞かされ、結婚する(したんだと思う)。
メアリーは赤ちゃん(らしきもの)を連れてヘンリーの部屋にやってくるが、赤ちゃんの夜泣きに耐えられなくなり、メアリーはひとり実家に帰ってしまう。赤ちゃんと取り残されたヘンリー。
その後、夢なのか現実なのか、気色の悪いことばかり起こってなんかよくわからんことになる。
■感想
時折、映画館で映画を見ていて早く終わってほしいと思うときがあります。
退屈、あまりにも怖い、トイレに行きたい、次の用事があるのに思いのほか映画が長い……。
今回は、なんかおかしくなりそうなので早く終わってほしいと思った。
怖いのとは少し違う。
しかしもう、悪夢を延々と見ているようなシュールというか気持ちの悪い映像、映画に満ちている頭おかしくなりそうなノイズ。
「早く終わってほしかった」というのは褒め言葉。
そう、これはデヴィット・リンチ作品。
ちょこちょこ検索してみて、親(父)になる不安を表した作品という紹介が多く見られ、なるほどなぁと思いました。
しかし、あんまりいろいろ考えなくてもかなり不安な気分になれます。
白黒作品ですが、明るい白い部分はほとんどありません。灰色と黒。
気持ち悪いけれどシュールさというかどことなく滑稽なところもあって、でもここで笑うのは不謹慎なのかとか、変な気持ちに。
もげた頭が本当にイレイザーヘッド(鉛筆の頭についてる消しゴム)になっちゃうとか、なんじゃそりゃって。
これ、ヘンリーの主観(一部違うところもありますが)の映像だというのは、そうだと思います。
同じものを見ていても、人によって捉え方は違うわけですね。何なのかまったくわからない「赤ちゃん」も、ほかの人が見れば普通の赤ちゃんなのかもしれません。
ヘンリーの主観(普通の人とはだいぶ違う)を説明なく見せられている、というのか。
だから多分、理解はできないんだと思います。
■気持ち悪いので、苦手な方はお気をつけて
ぴくぴく脚が動いてナイフを入れたら出血する(笑)チキンとか、赤ちゃんの濡れたかんじとか、相当気持ち悪い!
胎児(?)みたいなぬらぬらしたものがぼとっと落ちてくるだけでも、うげげげ、と。
部屋も気味が悪くて、机の上にいきなり土が盛ってあって木が生えてるの。
登場人物も不気味。特にメアリーのお母さん強烈。ラジエーターのほっぺおかしな女の子も……あれ、可愛いわけじゃないよね? 気持ち悪いよね?
そういうのが苦手な方はわざわざ見なくても良いと思います。
まさに怖いもの見たさで見ましたが、こういうものを映像にして作品として成り立たせてしまうというのがすごい。
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映画 ゴーギャン タヒチ、楽園への旅
この人です。ヴァンサン・カッセルと似てるかな?
ゴーギャンが妻子を置いてパリを出てタヒチに趣き、現地の美少女テフラと出会って結婚し、彼女をミューズとしてたくさん絵を描くけれども、絵は売れず貧しいまま。病気は悪化し、フランスに送還されることになるまでのお話。
ゴーギャンはヴァンサン・カッセル。すごく目が青い。ゴーギャンに似ている、らしい。
テフラ(タヒチの少女)はツィー・アダムス。
ものすごく寒い日だったので、タヒチの太陽を拝んでちょっとでも暖かい気分になりたいと思って見に行きましたが、思いのほか暗い映画でした。
良くも悪くも想像を超えるものはなかったかな。
予告編はとても興味深そうな上手な仕上がりですが、ストーリーの展開の順番とは入れ替わっているので注意が必要。
画家の苦悩とか狂気というのは、まぁ、そうかなと思います。
生きているうちに評価されなかった芸術家というのはたくさんいて、極貧のうちに亡くなった、なんてバイオグラフィーを読むと、本当に気の毒だと思ってしまう。彼ら・彼女らの中には「それでもいい、自分の道を行くんだ。他人の評価など何になるか」と満足していた人もいるのかもしれませんが、それでも厳しい生活はつらいよね……。
でも、ゴーギャンは「それでもいい派」ではなかったようです。売れないと生活できないから、売れてくれないと困る。描いてはフランスに送る。でもなかなか売れない。絵の具も足りなくなってくる。絵の具をチューブから必死で絞り出している様子は切ない。
筆を置いて肉体労働をしなければならない状況に追いやられて、その傍らで、自分が技術を教えたヨテファが作ったお土産用の量産品(といっても手作りですが)の彫刻がいい値段で売れていく。これにはガックリくる。こちらまで虚しい気持ちになる。
ただ、極貧のはずのわりには、引っ越し後、けっこういい感じの家に住んでるんですよね。物価安いんかな。
生活破綻者なのか、お金がなくてもそれなりに暮らせる土地なのか、なんかちょっとよくわからなかったりもした。
一方で、絵を描くんだと言って家族を捨ててタヒチに行ってしまうし、テフラちゃんをはじめ、タヒチの人たちを尊重しているような雰囲気もない。自分の父ちゃんだと嫌だな、というかんじの人です。
一応、現地の言葉は使っていましたが、お隣さんのヨテファにはめっちゃえらそうにしていて、結局あんなことになってしまって。
「文明化」(というか、西洋化かな)されていない自然をタヒチの人々に押し付けているわけですが、そのへんもちょっとほのめかされているだけで、特に深められてはいません。要するに植民地化された土地ですけど、そこに関する描写はほとんどなかったです。
なお、"sauvage"という言葉が「野蛮な」と訳されていて、たしかにほかに言いようはないのですが、原始の、とか、野生の、とかそういう意味に近いんだと思います。いわゆる「野蛮人」というマイナスの意味ではないと思います。
ゴーギャンの、芸術家として普通の人と違っているところ(おもに身勝手に見えてしまうところ、自由さ、頑なさ)、そのために美しく「真似できない(あるいは、したくない)」と思わせるような部分と、嫌で眉をひそめてしまうような部分とがあると思うのですが、うまくやろうとしてうまくいかない、その苦悩は現れていたと思います。
若い嫁に執着する意地悪なおじいちゃんみたいにも見えてしまうけれど、「もう、早く放してあげればいいのに」という気持ちと、そこはそれ、若いタヒチの女性の自由を抑えておくことはできない老い(というよりも、魅力、財力も含めた「力」のなさ)に苦しくなる。
(後で調べたところによると、ゴーギャンはこのとき40代半ばです。ヴァンサン・カッセルが疲れているせいか、けっこうなおじいちゃんに見えるんだけど。)
最後に、ゴーギャンはテフラとは二度と会うことはなかったって説明が出てくるんですけど、「まぁ、そりゃそうだろ」とは思いました(笑)
でも、最後の絵を描くシーンはとても良かったです。
じーんとした。生活には失敗はしてしまうけれども、彼女も「コケ」の絵はそれなりに好きだったのかな。もしかしたら、絵を描いているゴーギャンが好きだったのかもしれません。
後でWikipedia先生に尋ねてみたところ、ゴーギャンの現地妻は、なんと13歳とか14歳とかのティーンエージャーだったらしい。しかも、子どもまでもうけている、らしい。
映画のテフラは、たしかに少女ではありますが、ローティーンには見えません。
画家の女性の趣味が主眼ではないのだろうし、13歳の妻、という設定で映画を撮るのは昨今いろいろ難しいのかもしれませんが、ちょっと隠している感じがしました(後付の感想ですけど)。
タヒチって綺麗だなぁ……と思うようなカットは思ったより少なかったです。なんでこの風景であんなに鮮やかな絵を描いたんか?と思ってしまった。
森はすごかったし(馬が可愛い)、最後の、島を離れていく所はいいなぁと思いました。
ヴァンサン・カッセルの(疲れた)アップはたくさん見られます。
テフラ役のツィー・アダムスはとても綺麗な人です。
タヒチの生命力をもらえるかというと微妙かな(このへんがもう偏見なのかもしれないですけど)……と思うので、それなりに元気な時にご覧になることをおすすめします。寝ちゃうよ。
とはいえ、実はゴーギャンの絵はそんなにものすごい好き、というわけでもなかったのですが、これからはじっくり見てみたいと思いました。
そういう影響を与えてくれる映画はいいですよねと思います。